「絆」ー佐野武さんより

   「絆」

 ヒロシくんとは、あるコンサート会場で知り合った。齢は私より上で、最近初孫を授かった。定年後も嘱託のような形で会社に残り活躍されている。
私とめぐり会ったのがきっかけとなり、ライヴハウスにも通われるようになり、ミュージシャンと会話を交わすまでになった。おこがましく聞こえるかも知れないが、私がリードして来た感じがする。
昨年の高槻ジャズストリートでは、私がアテンドするミュージシャンの演奏会場へ、わざわざ足を運んでくださり、励ましてくださった。
ある時、ヒロシくんが「僕はまだボランティアをしたことがない。佐野さんの話を聞いていて、僕も参加したくなった。高槻ジャズストリートに参加してみようかなぁ。何が出来るか分からないけど、佐野さんの下で手助けするのでも構わないので……」なんておっしゃる。
実はこの時戸惑った。私はボランティアだけに集中するので、年上のヒロシくんに気を遣いたくなかったのだ。正直にその旨を伝え、とりあえずボランティア登録を勧めた。
登録を済ませたヒロシくんは、公民館担当と決まった。アテンド班の私とは別行動となり、ある意味ホッとした。
ヒロシくんは会場リーダーの山口さんとも顔を合わせ、最初は一日だけ参加するつもりだったのだけど、その親しみやすい空気から二日間参加することになった。
僕は途中でヒロシくんの様子を見に行くつもりであったが、二組のアテンドはなかなか余裕がなく、心の片隅で案じながらも会うことは叶わなかった。
高槻ジャズストリートが終わり、神戸のライヴハウスで同席した時、感想を聞いてみた。
ヒロシくんの二日間はとっても充実していたようである。観たいライ ヴも快く了解を得られ、途中で抜け出すことが出来たという。「来年はひとつミュージシャンのアテンドをやってみませんか?」
少しだけ意地悪な質問をしてみた。
「はい、ありがとうございます。でもね、公民館リーダーの山口さんから、労いの言葉をいただいた時、『私は毎年公民館の担当です。来年も一緒にやりましょうね』と言われましたので……」
ヒロシくんには、リーダー山口さんとの信頼がしっかりと築かれていた。私はうれしかった。ボランティアでいちばん大切なもの〈絆〉が、ヒロシくんの中にも育まれていたのだ!
ヒロシくんお疲れ! そして公民館の山口さん、ありがとうございました。

【ペンネーム】今宵も良い酔い佐野ヨイヨイ

神戸市東灘区/佐野 武